前回の記事「夏の寒さ」に“もっち”さんがくださったコメントに対して、お返事がちょっと長くなってしまったので別記事とすることにしました。
登山を趣味とされる皆様のご家族は、今回の遭難を聞いてさぞご心配されることでしょう。もっちさんの言うとおり、一人一人が考え、答えていかなければならないのだと思います。
今回の件についても、「悪天候の中どうして出発したのか」と後から糺すことはとても簡単です(マスコミの論調もそうなっています)。それは遭難という結果を見てから後出しで言っているからです。他人事としての非難と言ってもいいでしょう。こういう批判とも言えない批判は、野次馬的興味を煽るだけで、意味も意義も大してありません。
私たち登山者(そしてなによりガイド)がしなければならないのは、「もし自分だったら?」という自省です。ヒサゴ小屋で実際に同じ状況に置かれた時に、はたして自分は正しく行動できたのだろうかと、我が身に置き換えて考えることです。
自信を持って「自分は絶対大丈夫」と答えるならば、その人は遭難予備軍の一人に違いありません。遭難という結果が出る前に、可能性を予測し決断をする。これはかなり難しいものです。同じ日にヒサゴ小屋を出発し(幸いにも)下山したパーティーがいたことを忘れてはいけません。遭難せずに済む可能性もある中で、遭難する可能性を選び取ることが如何に困難であることでしょう。
今回の遭難については、論点が3つあるように思います。1つは悪天候の中なぜ出発したのか。2つめはメンバーの装備は十全だったか。3つめはパーティーがバラバラになったのはなぜか。
1)
悪天候の中出発したことについては、ツアー行程に余裕がないことに大きな問題があり、それは主に企画した会社側の責任です。現場のガイドが悪天停滞を決断しにくい環境があらかじめ作られていたわけです。私たちは予備日の重要さをあらためて認識しなければなりません。
2)
メンバーの装備(主に服装)と事前の確認については、私たちも多いに反省しなければならない点です。全員が必要充分な装備を用意することは山行の大前提だからです。
3)
そして今最も知りたいことは、「なぜ次々にパーティーを割っていったのか」です。その決定を導くに至った理由・条件は何だったのでしょう。パーティーを分けずに全体で停滞しろ、ヒサゴ小屋まで引き返せ、と言うのは簡単です。先ほども言ったようにそれは後出しに過ぎません。私たちがしなければならないのは、そういう決断をできなかったのはなぜか、自分がその状況に置かれたら果たしてどうしただろうか、よく考えることです。そのためには、詳細な事実関係を知らなければなりません。
今のところ考えなければならないのは、
・ツアー行程に余裕がないため、その日のうちに下山しなければならないという心理的圧力がなかったか
・パーティーの人数が多すぎたのではないか
・3名いたガイドに信頼関係があったか(今まで一緒に仕事をしたことがあったか)、役割分担がしっかりできていたか
・3名のガイドのうちトムラウシを知っている人が1名しかいなかったことが、決断を誤らせたのではないか
というあたりでしょうか。今後の解明が待たれます。
山を愛する皆さん。今回の遭難は決して他人事ではありません。ぜひ自分のこととして考えてみてください。二度と同じ悲劇が繰り返されないように。
2 件のコメント:
おはようございます
記事を読んで気になった所があります。
「トムラウシを知っているガイドが1名しかいなかった」と言う所です。
本当にトムラウシを知っていたのか?
未だに疑問に残りますし、何度か来訪していると報道されていますが、本当の大雪の気象を予測できるだけの知識があったのか?が疑問です。
近年、通常の気象予報だけを当てにして登山される方々も多いと思いますが、現地の地形や気象の特殊性も頭の中に有ったのか?
高層気象はどうだったのか?などなど……。
もう一つ近代的な事故に繋がる原因が潜んでいるのではなか?
指摘したいのは、近年の技術的登山用品の発展は確かに良い物が沢山あります。軽量のトレッキングシューズ、保温性を謳った雨具等など、
装備は以前よりは軽量になり、確かに縦走は楽になってきました。
が、大雪山中で5m程度の風は何処の山でも吹いていますが、雨具への信頼(過信)で、本当の「保温」と言う事を忘れていないか。
長々と書きましたが、個人々々(私も)が考えなければいけない事も含め、改めて考えて欲しいものです。
因みに私は、低い夏山でも、汗による体温低下予防のために、必ず、セーター若しくは厚手の上着は1枚持参します(常識だと思います)。
これにて
では……………。
モンタンさんのように北海道の山の厳しさを知っている方なら、当然夏でも防寒具には気を遣うはずなんですよね。
道外から来る方にも常識となって欲しいところです。
気象の予測に関しては、気象庁の専門家が膨大なデータを用いて行う平地における翌日予報すら当たらないのですから、素人が地上天気図しか情報を持たずに行う山の上での予測はほとんど不可能に近いほど難しいことだと思います。
現実的には、正確な天候予測よりも、行動できるか否かの現状判断を早めに行うことが重要なのではないでしょうか。
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