東川町の広報誌「広報ひがしかわ」の中に「大雪山の素顔」というコーナーがあり、東川在住の山関係者が山に関するあれこれを月替わりで書いています。もちろん私たちも執筆陣に名を連ねます。年に一度ずつですが私たちの軽妙洒脱かつ重厚長大な美文名文が掲載され、大人気を博しているようです。たとえば、10月31日に佐久間が書いた文章は最新号に載ったものです。熱い要望にお応えして、わたしが書いた分も出しておきますね。
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夏の夜。夕涼みがてら街灯の灯る温泉街を散歩することがある。夜というのは不思議なもので、歩き慣れたはずの坂道の見慣れたはずの風景がいつもとどこか違って見える。日中、登山者で賑う歩道にも、ひっきりなしに車が往来する車道にも、今は誰もいない。少々心細くなってきたそのとき、突然森の中から不思議な音が聞こえてくる。何か金属をこすり合わせたような甲高くて短い音。それは・・・?
愛らしいナキウサギちゃんだ。旭岳温泉街周辺の森はナキウサギの住処なのだ。
大雪山においてはナキウサギは身近な動物の一つである。鳴き声はたいていの山で聞くことができるし、ちょっとの時間と根気があれば姿を見ることもそう難しくはない。中には登山道のど真ん中にのこのこと出てくるヤツもいる。足下の岩の隙間から上半身だけ出して周囲を覗っている姿を見たときには、可愛すぎて失神しそうになってしまった。そう苦労しなくても会えるニクイヤツ、温泉街にもやってくる身近なアイドル、それが大雪山におけるナキウサギ像だ。
しかし、全国的に見ればナキウサギは珍しい動物である。日本での生息域は大雪山を中心とする北海道のごく一部に限られる。そもそも「氷河期の生き残り」などと呼ばれ、二つ名からして稀少感をたっぷり醸し出しているではないか。過去の寒冷期に北海道と大陸が陸続きとなったときに渡ってきたはいいが、それぞれが海峡で隔てられた今となっては帰れなくなってしまった、という悲劇がその由来だ。そう考えると、大雪山にナキウサギが住んでいることは、単に珍しいというだけの話ではないことがわかる。背後には長い長い地球の歴史が横たわっているのだ。
ナキウサギも無駄に愛くるしいわけではない。今度、ナキウサギの声を聞いたなら、彼らが大雪山に住み着くまでに経てきたはるかな道程に思いをはせてみてはどうだろうか。
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普段とは文体を変えて書いていますので、ちょっと感じが違うでしょ?
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