ここまで近かったのは初めてのことです。昨日登った羅臼岳。羅臼平で休憩しているときでした。お客様が発した「クマ!」との声に顔を向けると、50~60mほど離れたハイマツがユッサユッサ揺れています。羅臼平に向かって降りてきた三ッ峰の斜面が、斜度を無くして平らになるかならないかというあたり。感覚的には「かなり近い」距離です。そこから、のそり、と現れたのはやはりクマでした。こちらを一瞥してゆったりゆったりと薮をかき分け歩いていきます。 ついさっき私たちが登ってきた大沢の方に向かっているようです。
そんなに大きくはないので、メスか親離れしたばかりか。少し歩いては立ち止まり、こちらに顔を向けては様子をうかがっています。一応クマスプレーを取り出しはしましたが、 「オレ、オマエラに興味ないもんね」という合図に、「こっちだって無関心ですから」と返し、即席の紳士協定が成立。お互い干渉せずに徐々に距離は離れ、ついにはお別れということになりました。本当はお互いに気になって仕方ないのに、知らないふりを装い合ったわけです。
怖いという感情がちっとも湧かなかったのは、おそらくクマが落ち着き払っていてくれたからでしょう。
羅臼岳の登り始めに置かれた看板を見ると、大沢付近では何度もクマが目撃されているようです。でも、何度もこちらを振り返りつつ歩いていったあのクマのことを思い出すと、クマを見たというよりクマに見られたというふうに感じてしまいます。おそらくクマの方が先に私たちに気づいていたのでしょうし、そういう意味でも山で見られているのはヒトの方なのかもしれません。
知床のクマ密度の高さを再認識させられた日となりました。


















































