2007-12-12

九州山行4日目 屋久島2

11月27日(火)小雨

朝5時30分、目覚ましの音で目を覚ますと小屋の中はまだ真っ暗です。昨夜暗くなってからやってきたご夫婦はまだ寝ている様子。今日は登山口まで下りるだけだから急ぐ必要はないと言っていたっけ。同宿の二人を起こさないよう、そっと荷物を運び出し、外のテラスで朝食を摂ることにしました。

夜のうちに気がついていましたが、やっぱり外は雨。まだほとんど視界が効かない暗闇の中、しとしとと周囲の木々を打つ音だけが聞こえてきます。思ったよりも降りが弱いかな?「月のうち、三十五日は雨」という有名な一節を聞き、土砂降りもやむなしと覚悟してきていたので、悪天にも意外と平常心でいられました。まだ日が出ていないのに、寒さをほとんど感じないのもこの雨のおかげなのかもしれません。

ようやく小屋を囲む木々の輪郭が見え始めてきたか、というころ、遠くから賑やかな話し声が聞こえてきます。ほどなくヘッドライトの光が二つ近づいてきました。朝6時。山では早い時刻ではありませんが、この真っ暗な中歩く人がいることに驚いてしまいます。雨宿りがてら小屋で休憩するつもりだったらしい二人は私のいるテラスに上がってきました。暗い中ヘッドライトをつけていると、逆光で表情などは全く見えなくなるのですが、声の感じから若い男性とわかります。

二人は淀川登山口~宮之浦岳~高塚小屋~白谷雲水峡という縦走コースを1泊2日で歩くそうです。ガイドブックなどを読むと、このコースをこの日程で歩くのはごく一般的とされています。私は前後に少し余分に歩くものの、ほとんど同じ距離を3泊4日する予定で入山しました。そう告げると二人は不可解に思ったようです。その気持ち、よくわかります。だって効率が悪いですものね。2日で歩けるところをどうしてわざわざ4日かけて、と思いますよね。でもせっかくはるばるやってきた屋久島ですから、できるだけ長く浸っていたいのですよ。

二人を見送り荷物をまとめた頃、ようやく辺りが薄明るくなってきました。7時20分。そろそろ出発しましょう。標高約1400mの淀川小屋から標高1936mの宮之浦岳に登り標高約1500mの新高塚小屋に下る今日の行程。距離にして約9kmは楽な部類に入ります。

樹林帯で目立つのがヒメシャラの黄葉。ほとんどが緑の中、ところどころそこだけ日が射しているかのように明るく際だっています。初めて目にする木ですが、特徴的なツルツルの樹肌で調べればすぐにそれとわかります(たぶん)。

樹林帯で嬉しいのは、しとしとと降る程度の雨ならほとんど濡れないこと。見上げても空が見えないくらいの樹冠が雨を遮ってくれました。

小屋から1時間20分。木々の尾根を登りきるとぱっと視界が開けます。南限の高層湿原と言われる花之江河です。いたるところ高層湿原だらけの北海道と比べると、ごくごく小さなものですが、屋久島の植生の中でこの景色が現れると妙に感動的なものがあります。晴れていればここらでゆっくり休憩をとりたいところです。

花之江河から一登りすると樹林帯を抜け亜高山帯に入ります。雨ではありますが雲は高く遠望が効くのは幸いです。宮之浦岳まであとわずか、栗生岳から来し方を振り返ります。左から翁岳・安房岳・投石岳。この山々の山腹を歩いてきたわけです。緑の絨毯から飛び出ているかのような花崗岩が山を魅力的に飾っていて、北海道ではちょっと見られない山容に旅心をくすぐられることしきり。ここでもゆっくり休憩したいところです・・・。

栗生岳から宮之浦岳まではヤクシマダケと花崗岩を縫ってほんの一登り。ヤクシマダケだけ見ると北海道の低山と似た感じにもなりますが、やはり点在する岩がこの島のこの山の特徴なのでしょう。右に左に巨岩に目を奪われながら進んでいきます。

ついに登頂、宮之浦岳。小屋から3時間30分の道のりでした。 ここでお昼休憩にします。さすがに座っていると少し寒くなります。聞いた話では、山腹の小杉谷は東京と同じくらい、宮之浦岳山頂は札幌と同じくらいの気温なのだとか。きっと夏でもここまで来れば涼やかで快適なのでしょうね。

山頂からは360度遮るもののない景色が広がります。さすがは一等三角点の山。行く手には永田岳。力強い山容で迫ります。

下に目をやると幾筋も刻まれた谷に低い雲が入り込んでいます。すぐそこにあるはずの海はその雲に隠されています。つまり、山より高いところに雨雲が広がり、山より低いところにも雲が広がり、上と下の雲に挟まれたところに宮之浦岳を始めとする山々が連なる、ということなのでしょうか。もう少し雲の高さが違っていたら全く景色が見えなかったのかもしれないと思うと、たとえ雨でも今日の天気に感謝したくなります。

山頂直下の岩陰で朝の二人と再会し、抜きつ抜かれつしながらぐんぐん下っていくと、やがて巨岩が積み重なる「平石岩屋」です。 岩が積み重なって隙間に雨露をしのげる空間ができると、そんな場所を岩屋と言うそうです。縦走路にもいくつかありました。ここは岩屋もさることながら、岩の上からの景色が素晴らしい場所です。

縦走路中、宮之浦岳が一番きれいに見える場所なのです。うねうねと続く登山道。自分が歩いてきた道を見返す瞬間、なんともいえない満足感に包まれます。だから展望の効く山歩きは楽しいのですね。

平石岩屋を過ぎるとすぐに再び樹林帯に突入します。標高を下げると、辺りは湿気を感じさせる深い霧に包まれ、そして霧と森の中から今日の宿・新高塚小屋が現れました。到着はちょうど13時。今日は全部で5時間40分歩きました。途中もう少しのんびり休みたかったのですが、この天気ではそうもいきません。まあ、小屋でゆっくりできるのでよしとしましょう。

小屋のテラスで濡れものを乾かしていると、例の二人がやってきました。朝から何度も会っていますが、ようやくここで落ち着いて会話をすることができます。朝はよく見えなかった容姿は、どうやら私より若そうです。20代半ば、大学生かそれとも卒業したばかりか。三重から3泊4日で屋久島を訪れているとのこと。明日急いで下山してレンタカーで島を一周するのだと楽しそうに教えてくれました。

3人でいると自然と会話が弾み、ついには住所交換までしてしまいました。昔、旅をしていたときには色々な国で出会ったたくさんの人と住所交換をしたものですが、そのときの記憶が蘇り懐かしい気分になりました。知らない人と出会い、語らい、いつかの再会を約し合う。これこそ旅の醍醐味です。

一つ先の小屋まで下ると言う二人を見送り、再び一人になった私は、自分が旅に身を置いていることに深い喜びを感じました。

2 件のコメント:

もっち さんのコメント...

ヒメシャラ、最近ご近所でも庭木として人気のシャラ(ナツツバキ)の親戚ですよね。
赤い肌がつるつるという。
自然には箱根以西とか、野生のは見たことないので憧れです。
ゆーくっりなでなでしましたか。
最後の写真の階段脇の赤い幹もそれでしょうか?

往復2時間という永田岳にあくせく行かないのが、土栄さんらしいかな。

DOEI Takuma さんのコメント...

最後の写真の木もきっとヒメシャラだと思います。
あの辺りにはヒメシャラ林があると書いてありましたし。

永田岳に行こうとは考えもしませんでした。
見るからに良い山なので、通り抜けて下山するなら行ってみたいかな。