11月18日(木) 曇り一時雪
テントの片隅に置いておいた2リットルほどの水の中に、かなり大きな氷の塊ができていました。薄氷とかではなく、ばりばりの個体でしたから、最低気温は軽く氷点を下回っていたようです。それでも、体感的には思ったよりも寒さ厳しい感じはしませんでした。さすが、冬用装備の数々。重量と嵩を増しても持ってきた甲斐があったというものです。
昨日にも増して硬く結氷している双子池。冷え込みの強さを感じさせます。今日はこれから亀甲池・北横岳・縞枯山荘・麦草峠とどんどん南下していきます。
出発して間もなく訪れる亀甲池から北横岳までの登りは、今日一番大変な箇所かもしれません。標高差にして400m超。見通しの効かない深い樹林の中を一歩一歩登っていきます。ふと木々の連なりが切れたかと思うと、そこはすでに北横岳山頂。濃いガスに包まれて一切視界がありません。
山頂を辞すると再び針葉樹の樹林帯に入り、すぐに北横岳ヒュッテが現れます。ちょうど管理人さんが登ってきたところでした。
玄関に下げられている気温計を拝見すると、9時20分現在の気温はマイナス5度。樹林に覆われていてほとんど風が当たらないからでしょうか、思っていたよりもはるかに低い気温でした。プラス1~2度くらいかと予想していたのですが。ということは日出前の最低気温はマイナス10度以下だったのでしょうね。
北横岳ヒュッテからツルツルに凍った岩の登山道を下っていきます。ここまで登山道上の雪はずっとサラサラに乾いていましたが、初めて氷が現れました。南斜 面ですから、昼間陽光に照らされて融けた雪が夜間に凍ったのでしょう。この先も南向きの登山道には注意しなければならないかもしれません。
下りきると岩に覆われた平坦な広場に出ます。坪庭です。道の左右にロープが張ってあり、ところどころに案内板が立ててあります。大雪山で言えば姿見平のような散策路になっているのでしょう。ロープウェイ山頂駅まで15分という表記もありました。
これは・・・ガンコウランかな?細かい葉にびっしりと氷を纏わせています。近くに寄って見ると、一つ一つの葉に半透明の氷の結晶が着いているのがわかります。姿見平と比べると、池や沢など水気がないのが寂しく感じますが、それでも素敵な景色です。夏には華やかな花が咲き、人で賑わうに違いありません。
草原のただ中にある青い屋根は縞枯山荘です。出発から3時間経ちましたし、ここで長めの休憩を取っていくことにします。こういう営業小屋で休憩するのには慣れていませんので、ドアを開けるのにいささか緊張してしまいます。
入るとすぐ左手にストーブがあり、周りを5人が囲んでいました。真ん中の男性が管理人さんで他の4人の女性はお客さんのようです。ここは避難小屋ではありませんから、ただ入ってぬくぬく休憩するだけではダメなんですよね?どうも勝手がわかりませんが、とりあえず甘酒を注文します。
静岡から来たという女性達と少々お話をします。テントを背負って縦走しているという私に、「三重苦ですね!」とのお言葉。一瞬何のことかよくわかりませんでしたが、聞けば、1)初めての八ヶ岳、2)積雪、3)テント泊の三つが大変だということのようです。確かに初めての山で積雪があるというのはあまり嬉しくはありませんが、今のところ登山道は明確なので特別大変ではありません。雪上での幕営はテントが汚れないのでむしろ喜ばしいくらいです。でも、人によってはこれが「苦」に感じられるというのは新鮮な発見でした。八ヶ岳のように沢山の営業小屋が存在する山域では、「雪の中わざわざテントで・・・」となるのもわかるような気がします。
30分ほど休憩してすっかり体も暖まりました。氷点下の気温の日にストーブにあたりながら温かい甘酒をいただくなんて、これは本当に幸せなことです。
今日の目的地は高見石小屋かその一つ先の黒百合ヒュッテかどちらかまだ決めかねていました。小屋のご主人曰く、時間的に黒百合ヒュッテまで余裕で行ける、とのこと。そのアドバイスに従って、少し長く歩くことにしました。
縞枯山荘を出て小一時間。茶臼岳で休憩していると、突如アラレが降り出してきました。激しい降り様で積雪が見る間に増していきます。さっきとは正反対にとても落ち着いて休憩していられるような状態ではありません。行動食をちょっと飲み物をちょっと口に入れ、すぐに歩き出します。
雪に覆われた麦草峠。雪の上にいくつか車の走った跡がありました。この季節ですら往来があるのですから、夏山シーズンはさぞかし賑わうのでしょう。そういう意味では、車も人もほとんど来ない今の時季は、静かな山歩きを楽しむには好条件と言えます。
麦草峠から1時間で高見石小屋到着。小屋の前の広場の隅っこで休憩します。営業小屋の前庭って、休憩しててもいいのでしょうか?まわりに人がいれば倣うこともできますが、今はひとりぼっちなのでそうもいきません。どうも落ち着かないまま、やはりそそくさと小屋の前を後にします。
中山山頂手前にある展望台に着いたとき、ちょうどそれを待っていたかのように急速に雲が去り、真っ青な空と太陽が現れました。今日初めての光です。積もりたての雪に反射する陽光は爽やかにきらめいています。
来し方を振り返れば、女ノ神茶屋のあたりから、蓼科山・北横岳・縞枯山・茶臼山と、昨日・今日歩いてきた山々を見通すことができます。
中山を越えて中山峠の近くまで進むと、行く手に天狗岳が見えてきます。まったく素晴らしいタイミングで晴れてくれたものです。今日はほとんど一日ガスとアラレの日でしたが、終わりよければすべてよし。晴れ晴れとした気分で床に着けそうです。
どこか民宿然とした黒百合ヒュッテ。空からはすっかり雲がなくなりました。実はこれから今日最大のイベントが始まります。それは、生まれて初めての営業小屋泊まり。そう、今日はテント泊ではなく小屋泊することにしました。さきほど休憩した縞枯山荘はほんの入口付近に入っただけで終わってしまいましたが、今度は全てを目にして体験することができるのです。
二重になった玄関の扉を開けて受付カウンター周辺。奥の座敷にストーブとコタツ、左のハンガーがかかっているあたりにストーブ、そのさらに左手に薪ストーブと、一階だけで沢山の暖房機器が備わっています。
二階はたたみ敷きの寝室となっていてやはり民宿のようです。早速驚かされたのが、布団。布団で寝られることだけでもかなりの驚きですが、スタッフの方が敷いてくれるというのがさらなる驚き、驚愕と言ってもいいかもしれません。さすが有料の営業小屋。恐るべしサービスです。
それにしても、初めての営業小屋泊まりはわからないことだらけ。ザックはどこに置けばいいですか?自炊はどこでしていいですか?水はどこで手に入れるのですか?などなど、あらゆることをいちいちスタッフの皆さんに聞かなければなりません。忙しそうに作業をしている中、お手間を取らせてほんとすみませんでした。
今日の宿泊は私一人。全てのスペースを独占です。一人きりというのは営業小屋としては特殊な状況に違いありません。これで本州の営業小屋を知った気になってはいけないのでしょうね。電球の灯りの下コタツに潜り込んで、山関係の書籍が並ぶ本棚から数冊お借りしてぬくぬく読書三昧。テントで過ごす夜とは違う居心地の良さが、たしかにここにはありました。
今日の行程
双子池-縞枯山荘-麦草峠-黒百合ヒュッテ
07:03 双子池 発
08:59 北横岳 着
09:55 縞枯山草 着
10:24 縞枯山草 発
11:20 茶臼山 着
12:03 麦草峠 着
13:24 高見石小屋 着
14:40 中山 着
15:18 黒百合ヒュッテ 着
所要時間:8h15
歩行距離:13.8km
累積標高:+1341m/-980m
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