11月19日(金) 快晴
朝4時半に腕時計のアラームを合わせていたのに、起きた時には時刻はすでに5時をまわっていました。山の中で寝過ごすなんて今まで経験したことがなかったので、一瞬目を疑ってしまいます。いつもなら起床予定時刻よりも早く目を覚まして寝袋の中でもぞもぞ待機しているというのに。タタミの上に敷いた布団があまりに寝心地が良かったのでしょうか。あわてて飛び起きてまだ暗い階下へと移動します。
暗闇でヘッドランプを灯してごそごそしていると、スタッフの方が起きてきて電気を点けてストーブにも火を入れてくれました。屋根の下で眠れるだけでありがたいことなのに、こんなサービスをしてもらうと恐縮してしまいます。有料の小屋に泊まるというのはこういうことなのですね。「一口に小屋泊まりと言っても本州の営業小屋と北海道の避難小屋では全く質が異なる」というのはよく言われることで、私も理屈ではわかっていたのですが、これでようやく体感できました。何から何まで全て違います。民宿泊と公園の四阿泊くらい違います。
多少寝過ごしたものの、5時50分には準備万端整いました。後は夜明けを待つだけ。歩くのに支障がない程度に薄明るくなってきたのを見計らって、6時を過ぎてから出発。昨晩テレビで見た(これにもびっくりさせられました。ラジオではなくテレビなのですから)天気予報によると今日は一日快晴とのことでしたが、全くその通りになりそうな空です。玄関に掛かっていた気温計はマイナス14度を指しています。
今日は天狗岳・硫黄岳・横岳・赤岳と越えてキレット小屋まで行く予定です。岩場の積雪状態を見ながら進み、どこかでコースを変更する可能性も多分にあります。黒百合ヒュッテを出るとほどなく天狗岳への登りとなります。左が主稜線上の東天狗岳、右が西天狗岳で、後者の標高がわずかに高いそうです。雪が岩を隠して足場のよろしくない箇所が何度か現れますが、山頂に近づくにつれて歩きやすくなります。
登っている最中、左手の山並みから太陽が昇ってきました。どうやらこの方向は甲武信岳方面になるようです。日の出の瞬間を眺めながら山を歩くというのは、なかなかにたまらない快感です。
反対方向に目をやると、真っ白に冠雪した北アルプスが朱色に染まっています。劒岳を中心に左に立山、右に鹿島槍が連なっています(たぶん)。
空が朱に染まるのはほんの一瞬に過ぎません。天狗岳山頂に着いた時には、すっきりとした快晴の青空に変わっていました。
天狗岳山頂からは、南にどっしりと硫黄岳が見えています。その後に頭をのぞかせるのが赤岳。右に並ぶのが阿弥陀岳。
天狗岳を下ってわずかに登り返すとすぐに根石岳です。鞍部に根石山荘があり、煙突から白い煙を漂わせています。二人の登山者が出てきて硫黄岳方面に歩いていくのが見えました。昨日は歩いている途中誰にも会いませんでしたが、今日は先行者ありということになります。
根石山荘を越えるとすぐに樹林帯に入ります。標高2500mを越える稜線上だというに、もさもさ木が密生しているのが未だに信じられません。分岐に「箕冠山」と標識がありました。
箕冠山から一気に150mほど下り、小屋が二つ並ぶ鞍部が夏沢峠。どちらも冬期休業中でした。ここまで見てきたところ、概ね八ヶ岳の北半分の小屋が営業していて、南半分の小屋は休業という感じでしょうか。小屋の脇で休憩していると、根石山荘から来たらしい二人組が追い越していきました。昨日の荒天の中登ってきた人だけが、この時間にこれだけのお天気を楽しめるというご褒美をいただいているわけです。
夏沢峠から硫黄岳まではすっきりと見通しの良い斜面を登っていきます。山頂近くになると大きなケルンが導いてくれるように。
快晴の硫黄岳山頂に到着。標高2760mは今まで訪れた国内の山では最高峰となります。北海道最高峰の旭岳よりも500m近く高いのですが、下界を見下ろした時にそう違いを感じないのは麓との比高が同じくらいだからでしょう。逆に違う点を挙げると、ここよりも高い山がすぐそばに連なっていることでしょうか。
平らな霧ヶ峰とこんもりとした鉢伏山が重なり、その奥に穂高・槍・燕と、訪れたことのない私でさえ聞いたことがあるような有名な山が並んでいます。
諏訪湖の向こうに見えるのは乗鞍岳でしょうか。
さらに南に視線を移すと、あの台形の山はおそらく御嶽山。ここまではいずれも標高3000mを超す山ばかり。
どっしりとした山並みの右端が木曽駒ヶ岳。標高はわずかに3000mを切ります。
西向きの景色は北から南まで180度でこのようになります。
遠景ばかりに気を取られてしまいがちですが、足下の火口跡も荒々しく見応えがあります。
蓼科山から天狗岳を通じて硫黄岳まで。歩いてきた山々を昨日よりはるかにはっきりと見通すことができます。天狗岳の真上に先月登ったばかりの妙高山と火打山も見えています。
横岳方面に続く稜線。白く光り輝いています。
そのわずかに右に赤岳。西面がすっと切れ落ちていて高度感を増しています。
それにしてもなんという青空なのでしょう!こんな快晴は一年に何度もありません。雲が一つもなく、しかも霞むことなく遠くまでくっきりとしています。あまりに素晴らしいお天気なので、思わず自分の写真を撮ってしまいました。いつもはこんなことしないのですが、この空と白い山並みを見ると、やはり撮らずにいられませんでした。
で、なんだかものすごく満足を感じてしまい、ここで下山することにしてしまいました。雪の状態としてはそう悪くはなく、実際さきほど夏沢峠ですれ違った二人も赤岳方面に進んで行きました。でも、なんというのでしょう、上手く説明できませんが、もうお腹いっぱい胸もいっぱいになったのです。
風は比較的強く、太陽がこれだけ降り注いでいてすら冷たさを感じる中、30分たっぷりと写真を撮り景色を眺め、赤岳鉱泉経由で美濃戸口へと下ることにしました。
赤岩の頭までは展望の良いすっきりとした尾根を進み、その先はすぐに樹林帯。標高差400m以上を一気に下ります。樹林帯に入ると風が遮られ、太陽はますます高度を上げ、暑さすら感じるようになりました。途中で上下一枚ずつ脱ぎましたが、それでもまだ暖かいほど。小春日和とはこのことです。
日陰を流れる小川は凍っていましたので、気温自体は氷点下なのでしょうね。
あまりにも施設が立派で腰を抜かしそうになった赤岳鉱泉。背後にそそり立つ横岳との対比がどこか現実離れしています。
赤岳鉱泉から美濃戸口までは、とにかくひたすら長い!という印象です。最初は北沢沿いに進み、その後林道に出て、最後は車道。やまのこ村を越えたあたりの標高1650m付近で雪がなくなりました。
やっとの思いでたどりついた美濃戸口。ここから茅野駅までバスが出ているはず。次の便は・・・1時間半後。広場を夾んで反対側に八ヶ岳山荘という施設があり、「営業中」・「お風呂入れます!」と看板が出ていました。ちょうど上手いこと時間が過ごせそうだと思ったのに、中を覗いてみると電気も点いておらずガランとした雰囲気。大きな声で施設の方を呼ぶと、既に冬期休業に入っているとのことでした。がっくり。せめて外の看板は外して欲しい・・・。期待しちゃうじゃないですか。
幸いかなり早めにバスが到着してくれたので、出発まで車中で待たせてもらいます。運転手さんと色々お話をしてあっという間に時間が過ぎていきました。近辺の山をそこそこ登っているとか、北海道にも何度か旅行に来たことがあるとか。定刻になりバスが動き出した後も、私一人しか乗客がいないこともあり、道すがら見える山を教えてくれたりしました。
茅野に向かう途中、窓から八ヶ岳連山が全部見える場所がありました。一番左の蓼科山から電柱と重なっている硫黄岳まで歩いてきました。そこから右は残念ながら歩きませんでしたが、こうして下界から歩いた山を見上げるのは嬉しいものです。
稜線上にはそこそこ積雪がありましたが、下界から見ると山は真っ黒に見えるのですね。三日間ほとんど雪の上しか歩いていないのに、とてもそうは思えない景色です。
今日の行程
黒百合ヒュッテ-硫黄雄岳-赤岳鉱泉-美濃戸口
06:07 黒百合ヒュッテ 発
07:13 天狗岳 着
08:20 夏沢峠 着
09:22 硫黄岳 着
09:51 硫黄岳 発
11:02 赤岳鉱泉 着
11:55 堰堤広場 着
13:30 美濃戸口 着
所要時間:7h23
歩行距離:14.8km
累積標高:+854m/-1756m
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