2010-12-08

関東甲信山行・9日目 奥秩父縦走4

11月24日(水) 快晴

昨日のラジオでしきりに冷え込む冷え込むと言っていましたが、たしかにテントには霜がびっちりと着いていました。バリバリと音を立てながら外へ出ます。最初に目に飛び込んできたのは真っ青な空でした。たなびく巻雲がまだ低い太陽の光を映して橙色に染まっています。この二日間、雨やら雪やら霧やら雲やらに包まれていたので、よりいっそう爽やかに感じる朝です。

今日の行程はまだ決めかねていました。小屋のある場所、テントを張れる場所が半端な間隔にしかないからです。一つは4時間ほどで着く将監小屋。もう一つは10時間ほどかかる雲取山避難小屋。4時間では物足りないし10時間だと飽きるしで、帯に短したすきに長しというやつです。6~7時間くらいが好みなのですが、なかなかそう上手くいくわけではありません。

そんなわけでずっと迷っていたのですが、頭上に広がるすっきりとした青空を見た瞬間に心が決まりました。「よし、今日は歩く!」と。そうと決まればぐずぐずしていられません。急いでテントを撤収して歩き出します。

昨日歩いてきた道をわずかにたどって稜線に戻ります。まだ日陰になっている登山道上は霜と霜柱で真っ白になっています。

左手に見える山は二日前に歩いた国師ヶ岳。山頂付近は真っ白に冠雪しています。登山道はすぐに分岐して、一つは稜線上を笠取山へ向かう道に、もう一つは多摩川源頭・水干を通る道に分かれます。

このあたりの登山道は「源流のみち」と名付けられているようで、かなり幅広く平らに均されていて遊歩道的に歩きやすくなっています。30分もしないうちに水干に到着。ここで多摩川最初のひとしずくが滴り落ちるのだと看板に書いてあります。さすがに今は冬なので滴る水を目にすることはできませんでした。

反対側はすぐに沢となり深く切れ落ちています。この谷に落ちていく水はここから東京湾まで100km以上の長い旅をするのです。私も東京へと向かう身ですから、たどる道は違えど同じ目的地を目指すもの同士と言えるかもしれません。そんな感慨に耽りながら何とはなしに顔を上げると、そんな感傷的気持ちを一瞬で吹き飛ばすような景色がありました。

富士山です。上に青空、下にたなびく雲を従えた姿は端正そのもの。東から射す陽光が白く輝く雪に微妙な陰影をつけているのも見事です。この存在感・貫禄は圧倒的です。富士山に登って、山岳の高さを語れ。大雪山に登って、山岳の大(おおい)さを語れ。大町桂月が書き記した一文は私たち大雪山に関わるものにとってはごく知られたものですが、実際に目にするとたしかにその通りでした。しかもただ高いだけでなく、秀麗さ包容力をも持ち合わせているように思えます。

標高も低くなってきているので歩いていても基本遠望が効きませんが、それだけに時折木々の切れ間から見える山がいっそう美しく見えます。稜線に雪を連ねているのは南アルプスでしょうか。

気持ちの良い広場風の将監峠。3時間かからずに着いてしまいました。ここから将監小屋まではわずかの距離ですから、いくらなんでもここまでしか歩かないというのは短すぎます。今日の目的地を雲取山避難小屋にしたのは正解でした。

将監峠から雲取山の間には竜喰山・大常木山・飛龍山・三ツ山と標高2000m内外の山が連なっていますが、登山道はいずれの山頂も通りません。ここから先は延々と山腹をトラバースし続けるのです。途中数回鞍部で尾根にかすりますが、すぐにまた稜線から離れて絶対にピークを目指したりはしません。この割り切りようはいっそ潔く清々しいほどです。

飛龍山直下の分岐に至って、初めて雲取山の名前が現れました。いよいよこの縦走も終わりが見えてきた感じです。

その標識を越えてすぐ雲取山の姿を初めて見ることができました。あと2時間ちょっとというところでしょうか。最後の一頑張りです。

沢があったり岩がちだったりするところは立派な橋を整備して、とにかく執拗にトラバースを続けます。このあたりの整備はかなり行き届いていて、今日も崩れかけた登山道の補修工事が行われていました。

悠に3時間トラバースし続けて、ようやく稜線上を進むようになるのは狼平のあたり。登山道の左右にカラマツが立ち並ぶさまは遊歩道然としています。

踏みしめる落ち葉の音はやっぱり良いものです。足にも優しいですよね。

雲取山への最後の登りでちょっと苦労しましたが、今日の目的地・雲取山避難小屋には15時少し前に着くことができました。思ったよりも時間はかかりませんでした。この避難小屋はとてもきれいで居心地良さそうで、今日はテントではなくここに泊まりたいと強く思いました。でもこの小屋の近くには水場がなく、そして今日は一泊できるほどの余分な水を持ち歩いていません。つまり残念ながらここには泊まれないということ。

悲しい気分は置いておいて、小屋のすぐ裏にある雲取山の山頂を訪れます。

雲取山は東京都と埼玉県の境となっているため、両自治体の名を刻んだ標識が山頂のあっちとこっちにそれぞれ建てられています。些細なことですが、北海道では見ることができないので、面白く感じます。

富士山はここからも望むことができます。一日ずっと見守られていた気分です。

歩いてきた方向。ガスがはい上がってきているのが飛龍山。そこから右奥に向かって稜線が延び、一番奥の平らなあたりが甲武信岳。左に移動して中央奥が国師ヶ岳。頑張って歩いてきたものです。

雲取山避難小屋は諦めて、水場がある奥多摩小屋まで広い稜線を下っていきます。もう終わりと思ったところからさらに歩かなければならないというのは精神的にキツいものがあります。内心グチグチ言いながら奥多摩小屋までは30分の道のりでした。


今日の行程
笠取小屋-将監峠-雲取山-奥多摩小屋
 07:00 笠取小屋 発
 07:29 水干 着
 08:55 唐松尾山 着
 09:47 将監峠 着
 11:04 1847m 着
 12:22 三ツ岩 着
 13:34 狼平 着
 14:59 雲取山 着
 15:38 奥多摩小屋 着
所要時間:8h38
歩行距離:21.1km
累積標高:+1966m/-1989m

4 件のコメント:

もっち さんのコメント...

懐かしいです。

雲取山避難小屋は、40数年前初めて山で泊った所。
写真は当時の小屋を髣髴とさせるのですが、これだけ経っていると普通は建替えしてそうですよね。

笠取小屋の近くの雁峠山荘は、高校時代、初めての単独冬山縦走でクリスマスイブを過ごした小屋。
当時は無人で奥は閉じられていて、前室の壁沿いの物置台?で寝たのでした。
その後、一時有志の方が管理していたことがあったのは聞いていますが、今はどうなっているのでしょう。

こども時代、川といえば多摩川でしたから、源流の水干は特別な思いでたどりました。
結構水は流れていた記憶です。

次の夜は破風山を越えた笹平の避難小屋(今も泊れますか?)、この先で雪が深かったことを覚えています。

案内標識など随分整備されたようですね。
再び歩いてみたくなりました。

DOEI Takuma さんのコメント...

雲取山避難小屋はものすごくきれいでしたから、まず改築されていると思います。

雁峠山荘は最初泊まろうと思っていましたが、ちょっと遠慮させて欲しい感じでした。

笹平の避難小屋はがっちりとした造りで割と新しめに見えました。

山梨側はベンチなどが、東京側は登山道が、それぞれよく整備されていた印象です。

わだっち さんのコメント...

はじめまして。ときどき北海道の山の景色など楽しませていただいてます。

東京在住ですが、日帰りかせいぜい一泊の山旅が多く、こんな縦走の記事を読ませていただくと是非今度!と思います。
また、書かれているいろいろなものに対する印象がとても参考になります。

行ったことのある山は、あぁそうそう、そうだったなぁ、なんて思い返したり、
東京最高峰ながらまだ登ってない雲取山とか、前から行きたいと思ってる金峰山とかは、いいなぁ♪なんて思いながら読ませていただきました。

近いうちに私もテント担いで縦走したくなりました。

DOEI Takuma さんのコメント...

わだっちさん

初めまして。
コメントありがとうございます。

すごく素敵な縦走路でした。
全てが北海道と異なって見えて新鮮なんですよね。
金峰山は特に良かったです。

これからもご覧になっていただければ幸いです。