2013-12-28

登山道管理水準

以下は先日発行された『旭岳通信』43号特集記事からの転載です。『旭岳通信』は旭岳ファンクラブの会報ですが、会員以外の方にも広く知っておいてほしい内容ですので、こちらでも紹介させていただく次第です。


特集 「登山道管理水準」って何?

いつもお世話になっている登山道が、場所によって手の入れ方が微妙に異なっているのにお気づきだろうか?夏の間多くの観光客で賑わう姿見園地の散策路は道幅もひろく、天気さえ良ければ革靴や運動靴で歩くことも可能だが、利用者がひかくてき少ない高根ヶ原の縦走路は、「爪で引っ掻いたような」細い道になっている。これらの登山道の姿のちがいは、その場所における登山道のあるべき姿や、どの程度人工的に手を加えるべきか(加えないべきか)といった「管理水準」をもとに維持管理されていることに由来する。

12月2日、札幌駅ちかくの会議場で環境省主催の「大雪山国立公園における登山道管理水準検討会」第一回会合が開かれた。集まったのは、大学の研究者・ガイドブックや登山地図の著者・山岳団体代表・旅行業や山岳ガイド事業者らから選ばれた委員11名と、環境省・北海道・森林管理署・地元自治体一市九町の担当者など総勢三十名以上。2004年から05年にかけて策定された現行の管理水準が、十年ちかくの歳月を経てもいまだに充分活用されているとはいえない現状から、見直しにむけての再検討を行なうことになったためだ。
「登山道管理水準」とは耳慣れない言葉だと思うし、初めて聞いた方も多いだろう。そもそもどのような経緯で策定されたのか?
現行の登山道管理水準が検討されはじめた2001年頃の大雪山は、百名山ブームによる中高年団体登山ツアーの興隆により、登山道の侵食や植生荒廃・屎尿問題などのオーバーユースが顕著になり、未熟な登山者の増加による遭難が目立ってきていた。そこで、国立公園の利用の中心施設である登山道の管理のありかたを、自然環境と奥深い雰囲気を保全し、利用の確保と安全性の向上を図ることを目的に、登山道を一元的に管理するのではなく、大雪山特有の自然条件、利用条件を加味し、登山道の区間ごとに、それぞれの特性に応じて管理のやり方(管理のレベル)を定めることになった。これが「管理水準」で、着実に実施されているかをモニタリングし、問題があれば順次見直しを行なうことになっている。
現行の管理水準では、図2-2に示すように、「保護・利用体験ランク」(図の横軸、A・B・C)と「保全対策ランク」(図の縦軸、I・II・III)とを組み合わせた9とおりの区分が設定されている。



「保護・利用体験ランク」は、その場所における登山道のあるべき姿や好ましい利用形態から以下のように設定された。
A ・原始性が高く静寂な雰囲気を提供する ・宿泊を伴う縦走登山による利用を主体とする ・整備にあたっては沿線の自然の改変を避け、人為的工作物や人為的改変の痕跡がない環境の維持・復元を図る
B ・利便性を抑えた形で野生生物や景観を楽しむ場を提供する ・日帰り登山による利用を主体とする ・整備にあたっては沿線の自然環境の保全に留意し、自然環境及び自然景観への影響を極力抑える
C ・一定の利便性を確保した上で、野生生物や景観を楽しむ場を提供する ・半日程度の登山利用を主体とする ・現道の管理維持と事故防止・高山植物保護のための整備を行い、自然環境及び自然景観への影響が広がらないよう配慮する
「保全対策ランク」は、実際の荒廃状況にその場の自然の脆弱性(湿原・草地・岩場など)を加味して以下のように設定された。
I 脆弱性の高低にかかわらず、登山道内での著しい侵食がある。または登山道周辺にまで環境変化が及んでいる箇所がある。あるいは現在及んでいなくても潜在的危険性が高いことから保全対策の必要性は高い。
II 登山道内の侵食が少なく拡大する危険性が低い。あるいは登山道内での侵食箇所がある。または現在侵食が少ないが潜在的可能性があることから保全対策の必要性は中程度である。 
III 脆弱性が低い自然条件で、登山道内の侵食が少なく拡大する可能性が低いことから保全対策の必要性は低い。
これらの区分を実際の登山道に振り分けるにあたって、A-I,A-III,C-I,C-IIについては大雪山では該当なしとされ、残りの5区分が、登山形態やアクセスの難易によって分けられた56区間300kmの登山道に設定された(図2-3)。



具体的には、観光利用が主で脆弱性も低い姿見園地は最もランクの低いC-III、高根ヶ原からトムラウシを経て十勝岳へ抜ける縦走路はランクの高いA-IIとなっている。ところが今年の夏から秋にかけて行なわれた現地調査の結果、10年近く前に設定されたこれらの区分と登山道の現況とのあいだに食い違いが見られた。そこで今回の見直しとなったわけだ。検討会は今後も続き、二年をかけて見直される予定だ。

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