2009-08-30

勉強会(実地)3

最後に、今回最も興味を惹かれたお話。地形への人為的影響についてです。

登山道侵食という言葉はもはや市民権を得たと言ってもいいでしょう。黒岳から赤石川に向けて下る登山道は侵食の酷い場所の一つでした。今では近自然工法を援用して補修がなされましたが、それでも侵食の爪痕はしっかりと見て取れます。

今回重要なのは、ここから先。侵食が起こるということは、当然削られ流された土砂が存在するということになります。では、その土砂はどこへ行くのでしょう?答えは上の写真の通り。流れ出た土砂は登山道から溢れ出し、以前植生に覆われていたであろう場所を埋めているのです。

もう一つは、北海岳から北海平へと下っていく登山道。ここも侵食が目立つ場所です。えぐられて深くなった登山道は手前から奥に向かって延びていますが、途中ちょうど人物の立つあたりから先の登山道は全く侵食されていません。その代わり、そこから分岐するように深い溝が右方向に刻まれています。

分岐点から見ると、溝はこの通り。かなり深いものです。

遠くから見てもはっきりわかります。松田岳から見ると斜面に茶色い筋が認められますが、これが件の溝なのです。ずいぶん下まで刻み込まれています。

これは登山道侵食そのものではなく、登山道侵食が引き金となった新たな浸食、と言えばいいでしょうか。
1 人が歩き登山道ができる
2 登山道に水が流れ込み浸食を起こす
3 浸食された登山道は川となり水と土砂を流す
4 流れは低い場所を目指し登山道を逸れていく
5 登山道とは全く関係のない場所に浸食が起きる
という過程を経たものと考えられます。

今まで私は登山道侵食を考えるときに、えぐれていく登山道のことだけに着目していました。でも、今回示していただいたように、えぐれらて流れていく土砂も同じくらい重要な問題を引き起こすというのは、まさに蒙を啓かれた気分です。個人的には今回最も勉強になった点です。 今後この問題にはなんらかの形で取り組んでいきたいと思っています。

それにしても、やっぱり幾つになっても勉強って大切なものだと再認識しました。またこういった勉強会を行いたいと思います。今日ご参加のみなさん、大変お疲れさまでした。そして明日一番にスイスに向けて発つという平川先生。そんなにお忙しい中だというのに、大雪山までおいでいただき本当にありがとうございました。

勉強会(実地)2

ここまでは大雪山の地形がどうできていったかという大きな視点のお話。ここからはできあがった地形の上にできる模様などを見る比較的小さいスケールのお話です。

溶岩円頂丘の一つ白雲岳は、その山腹を大きな岩に覆われています。この岩がすこーしずつ動くんだそうで。よくよく見ると舌状に垂れ下がっているようです。

雲ノ平のアースハンモック。先生によると、かなり立派なものなんですって。モコモコふくらんだ上にチングルマやツガザクラやコザクラが咲くのですから、微地形的にも植生的にも見事な場所というわけです。

同じく雲ノ平の凍結割れ目(の化石)。割れ目に木本が入り込んでいるところからして、今はもう活動していないだろうとのこと。寒さで地面が収縮してできる、大きな六角形の一辺がこれです。

松田岳の白雲岳側斜面に、若干不明瞭ではありますが、条線土なるものもありました。レキがふるい分けられて縞模様を成すものです。

中岳と北鎮岳分岐の間にある奇妙な岩。ここを通る人なら誰しも目を奪われるオブジェ。参加者の皆さんもここは特に関心があったに違いありません。

お鉢平カルデラができる前、そこには巨大な成層火山がありました。その火山体を成す溶岩層の一枚が風によって削られ堅い部分だけが残って、こういう奇妙な岩になったというのです!ちなみに風の浸食でできた凹凸地形をヤルダンというそうです。ここを通ったらみんなで叫ぼう、ヤルダン!

まだまだ続きます。

勉強会(実地)1

勉強会二日目は野外へ出ての実地の日です。お鉢平を一周しながら様々なものを見て、そこにどんな意味があるのかを考えます。

朝6時始発のロープウェイに乗って、まずは黒岳までテクテク登ります。黒岳山頂からレクチャースタート。景色がすっきりと見えるのは幸いです。

ここではまず、溶岩流に着目しました。白雲岳の手前に、溶岩堤防と溶岩しわが見えています。お鉢平周辺では最も新しい火山活動になるそうです。

いわゆる御蔵沢溶岩流ですが、反対側から見るとこういう感じになっています。登山道中にこんもりと盛り上がった岩が溶岩の噴出口で、そこからのっぺりと広がっているのがわかります。地形図を見ると、ここから石狩川に向かって溶岩が流れていったのが判別できます。

表大雪北部の中心、お鉢平。松田岳付近から見ています。約3万年前の大噴火でできたカルデラです。その周囲にはポコポコと溶岩円頂丘が並んでいます。

お鉢平北側、赤石川両岸に広がる平らな面は、お鉢平から噴出した火砕流が堆積してできたものだそうです。それと同じ火砕流が石狩川に達し、谷を厚く埋め、再溶融してできたのが、かの有名な柱状節理なのだとか。

途中、浸食が進んだ登山道で火山灰も確認しました。全部で3枚の層があり、それぞれ樽前・駒ヶ岳・白頭山から飛んできたもの。地層に年代を入れることができるので、様々な解釈を導き出す基になるのですね。

まだ続きます。

寒い寒い寒い

まだ8月だというのに、山の上は秋も半ばかと思うばかりの寒さに覆われていました。

朝7時の黒岳7合目。気温計の指す値は・・・なんと5℃。これじゃあ夜明け前は氷点下でしょうね。

黒岳石室前のナナカマドも8~9分の色づき。

ウラシマツツジなんかはもう見頃と言っていいかもしれません。

そしてこれが今日一番の驚き。標柱に氷が着いていました!しかも気温が上がりきった昼の12時だというのに、まだ融けずに・・・。これでは9月半ばな感じです。

層雲峡ロープウェイの山頂駅に戻ると、ストーブがガンガン焚かれていました。大雪山の短い夏は終わり、季節は秋に足を踏み入れたようです。

ただいま勉強会真っ最中

北海道大学から平川先生をお招きして、お鉢一周の実地勉強会。寒い!

2009-08-29

勉強会(座学)

山楽舎BEAR主催の勉強会「地形学・自然地理学の視線で見る大雪山国立公園」が行われました。北海道大学大学院環境科学研究院から平川一臣先生を講師としてお招きし、一日目に座学を、二日目に実地を行うという密度の高い勉強会です。

今日は座学の日。東川町の道草館にたくさんの方にお集まりいただきました。普段から大雪山に関わっていらっしゃる方ばかりですから、講義に臨む真剣さは生半可なものではありません。

平川先生は地形・自然地理がご専門で、大雪山は主要な研究フィールドの一つ。40年近く前から訪れ始めたということで、1970年代の貴重な写真も見せていただくことができました。

先生にご用意いただいたテーマは「大雪山の地形、地質 -保全・保護の観点から-」というもの。途中で休憩を入れましたが、計3時間もお話いただくことができました。自分たちで手と頭を働かす作業があったりして、途中だれることもなくあっという間に時間が過ぎていきました。

ご参加いただいた皆さん、お手伝いいただいた皆さん、そしてお忙しい中講師をお引き受けくださった先生、どうもありがとうございました。

明日はお鉢平に飛び出しての実地です。

2009-08-25

はや、秋の気配

暑い夏はあっという間に過ぎ去り、朝晩ヒンヤリと秋の気配が漂う今日この頃。山の上でも、うっすらと紅葉が始まってきています。

すっかり綿毛になったチングルマの、たった一枚の葉だけが一番乗りで紅葉を始めていました。花・綿毛・紅葉と1年に3回楽しめるチングルマですが、3度目のお楽しみの幕が開けたようです。

高山帯でもおなじみのウラシマツツジが赤くなってきています。いつも一番乗りで秋を感じさせてくれるウラシマツツジ。枯れたハイマツの根の白さと、ウラシマツツジの光沢のある赤との相性は抜群です。

これから始まる紅葉の季節。今年はどんなキレイな景色を見せてくれるでしょうか。

今日のなっきー。

ナキウサギを見るならココ、という場所の一つ、ユニ石狩岳。今日も何匹かご尊顔を拝ませていただきました。


ちょっとボケていますが、茂みの奥に潜んでいたヤツをパチリ。モグモグウロウロモグモグウロウロ。その愛らしい行動をしばらくみんなで眺めさせてもらいました。貯めはじめたばかりらしい貯食も見られましたよ。

いつ見ても何度見ても可愛いなっきーです。

ただいま山行真っ最中

やっぱりニペソツは十石峠から眺めるに限りますなあ。
山頂は雲に隠れてはいますが。

2009-08-22

ただいま山行真っ最中

トムラウシ直下、南沼野営指定地にて。強風とガスでもテントの中は快適!明日は晴れるかな?

2009-08-21

ただいま山行(?)真っ最中

旭岳温泉街裏の見晴台コース。あいにくの曇天ですが、晴れていれば旭岳が見えるはず。小化雲も見えますよ。

2009-08-16

カムイエクウチカウシ2日目

テント場到着から寝るまで悠に7時間はあったでしょう。長い長い午後を私たちは主に昼寝をして過ごしました。こんな日に限って文庫本は持ってきていないしアルコールもほとんどないと、間の悪さを発揮してしまったからです。まあ寝不足解消にはなりましたが。

朝一番でテントから出ると、東の空の雲海の下からちょうど太陽が顔をのぞかせるところでした。

見上げるカール壁はオレンジ色に染まっています。空は真っ青で雲一つありません。昨日無理して山頂に行かなくて良かった・・・。

朝日を直接浴びながら急登を30分。稜線に出ると目指すカムエクがどっしりと待ち受けています。

ここからは稜線をてくてく登るだけ。前後左右に展望は良いし、途中岩場があったりして飽きることはありません。

テント場から1時間ちょっとで山頂到着。時刻は6時。まだ誰もいない山頂です。

展望は抜群の一言。特に印象的だったのは北方向。累々と重なる稜線の向こうに幌尻岳。

太陽が高くなるに連れ、西斜面の陰影が深くなり、いつまでだってこの変化を見ていたい気になります。

東にはびっしりと雲海が広がり、十勝平野を埋め尽くしています。お天気も良いし、長居をしたいところではありますが、これから下山して長い道のりを帰らなければならない身。後ろ髪引かれながらも30分ほどでお暇することに。

急傾斜の登りだったので下りは一気呵成に。この谷を延々と降りていくわけです。

いつも歩き回っている私たちの庭・大雪山とはあまりに異なる日高の山容。でも、「たまにはこういう山もいいねえ」なんて結論を出し、はるかな日高の山行を終えたのでしたた。

ただいま山行真っ最中

流石の一等三角点。この展望は素晴らしい!

2009-08-15

ただいま山行真っ最中

佐久間と二人、カール底にて。

カムイエクウチカウシ1日目

佐久間がすでにご報告しているように、8月15日・16日の二日間でカムイエクウチカウシの下見に行ってきました。

大雪山の麓に住む私たちにとっては本当に遠い山で、以前から行こう行こうと言いながら、つい後回しにされていた山でした。今年はクワウンナイツアーが中止となり思いがけずまとまった時間ができたので、ようやく重い腰を上げることができました。

早朝、道の駅中札内で佐久間と合流し、車を走らせること1時間。立派な舗装道路が突然行き止まりになったら、そこが登山口。既に10台ほどの車が停めてありました。今日はお盆の土曜日。山中は混み合うのでしょうか?

建設中止となった日高横断道をたどること1時間30分。途中いくつもの覆道をくぐり、立派な橋を渡ることになりますが、その度に様々なことを考えさせられてしまいます。

七の沢出合に至ってようやく川に足を浸すことができます。川原が広く水も浅いので、どこでも好きに歩けました。ゆるやかな流れをのんびりと遡るのは、林道歩きよりもはるかに楽しいものです。

1時間ほどで八の沢出合に到着。何張りかテントがありましたが、登山口の車の台数から考えると、少なめに感じます。本当ならここに泊まって、荷を軽くして山頂へ向かうのがいいのでしょう。私たちは山頂直下のカール底に泊まる予定なので、まだまだ先は長いのです。

ほどなくして、細くなった流れの真っ直ぐ先に目指す山頂が見えるようになります。目的地が見えるというのも善し悪しで、やる気が出るのが半分、げんなりするのが半分、という複雑な気分になります。

正面に滝が現れ、目の前に壁のようにそそり立つあたりで、残雪が沢を埋めていました。ここで一瞬ルートを見失ってしまいます。二手に分かれ、幸い私はすぐに正規のルートを見つけることができましたが、佐久間は大変苦労したようです。

ここから流れから離れて一気に急な登りに。小岩がガラガラ重なるルンゼでヘルメット装着。狭い溝だというのに、折悪しく下山中のパーティーとすれ違うことになりました。相手が上にいても、自分たちが上にいても、岩を落とされないか、岩を落としやしないかと心配になるものです。慎重に慎重に通過します。

再び流れに沿うようになると、相変わらず傾斜はきつめですが、かなり歩きやすくなります。水の中を歩いても良し、岸につけられた踏み跡を進んでも良し。

水が無くなり、沢が枯れたかと思ったらすぐに視界が開け、カール底に着いたと知れます。ここが今日の宿。

曇りがちではありますが、山頂は見えているし、まだ午前中だし、今日のうちに山頂往復してもいいかとも思いましたが、先ほどのルート探しで予定外に消耗した佐久間が乗り気ではなく、ここで優雅な午後を過ごすことにしました。これが後に吉と出るのですが、それは続きをご覧あれ。