2009-12-05

近畿山行・6日目 大峯奥駈道5

11月16日(月) 晴れ

一晩中吹き荒れた強風。というか猛風。テントは盛大にギシギシと揺らされ続け、とても生きた心地がしませんでした。というのも、テントから数m風下側が断崖になっていたからです。できるだけ崖から離れて設営したのですが、そもそもテントサイトはそんなに広くないので五十歩百歩に過ぎません。ペグも張り綱もいつもより多めに張ってしましました。テントごとゴロゴロ転がっていくなんてことはないとはわかっているのですが、それでも不安に感じてしまいます。

そうは言っても眠くなればあっけなく寝てしまうのが人の性。しかもぐっすりと眠っていたようで気がつけばもう起きる時刻になっていました。風は相変わらず吹き荒び続けています。まだ暗い中寝袋から上半身を出すと、「寒っ!」。思わずひとりごとが出てしまいます。気温の感じが昨日までとは明らかに異なります。身が引き締まるようなこの感覚、体感的には5度くらい低い気がします。小屋ではなくテントということも関係しているかもしれません。

こういうときテントならではの良さというのもあって、ガスストーブに着火するとあっという間に室温が上昇するのです。これはもう劇的の一言。お湯が沸くのを待つまでもなく、もわっと暑いくらいになります。それだけテントの内部が狭いということなのでしょう。お湯が湧いたらコーンスープを一杯いただき、これで体の中からも温まります。そのまま朝食になだれ込み、ほかほかのうちに朝の準備を終了。ちょうど日の出の時刻も過ぎ、外は徐々に明るくなってきました。

テントから外へ出ようとして、まずびっくり!どうも靴ひもが結びにくいと思ったら、ほんのり凍っているらしいのです。まさか氷点下になっていた?テントから外へ出て、二度びっくり!釈迦ヶ岳の山頂直下で木々が氷を纏っているのです!やはり昨晩はそうとう冷え込んだのですね。

今日の行程も昨日同様に長い時間がかかりそうです。休憩を含めない時間で9時間30分というのがガイドマップによる評価です。日没時刻も日に日に早くなってきています。早速出発しましょう。

行場として名高い大日岳の岩峰を左手に通り過ぎ、歩くこと30分。太古ノ辻に到着です。ここから前鬼に下る道が分岐していて、奥駈を歩く登山者や修験の行者でもその前鬼に下ってしまうことが多いのだそうです。看板には「これより大峯南奥駈道」と大書してありました。ここから“南”奥駈道が始まるということは、“北”奥駈道(こんな言葉は聞いたこともありませんが)が終わったということですね?ようやく北半分を歩き終えたか・・・まだ南半分が残っているのか・・・感慨と倦怠が混じり合った複雑な気分になってしまいます。

ともかく、ここで折り返し地点です。気持も新たに今日も一日頑張って歩きましょう。

どことなく暗く感じさせる厚い雲が頭上を広く覆ってはいますが、目の前には山並みがずうっと遠くまで見えています。地形図と照らし合わせたところ、ちょうど今見えているこの山並みをこれから歩いていくことになるようです。正面やや左手の一番奥に台形型の山がよく目立っています。それがおそらく笠捨山でしょう。そのちょっと手前が今日の目的地・行仙宿山小屋。あんな霞んでいるようなところまで歩いていくんですね。

ふと見上げると、西の空は雲が薄くなり合間から青空も覗いてきていました。うまくすれば今日も晴れの日となってくれるかもしれません。しばらく雨ばかり続きましたから、その分これからは晴れ続きになってくれてもいいんですよね。

思わず目をみはってしまった風景。東南方向の意外なほど近くに海が見えたのです。これ太平洋ですよね?こちらの方角はまだどんよりと雲がたれこめていますが、その奥に太陽があるのがうっすらと見えていて、それが水面に反射しているのもわかります。ずいぶん山奥にいる気になっていましたが、考えてみれば今紀伊半島にいてどんどん先端に下っていっているわけですから、海が近いのも道理なのです。普段海を感じられない山ばかり登っているので、こういう景色はたまりません。

その名の通り、シャクナゲをかき分けて歩くような石楠花岳を過ぎて、次のピークは天狗山。このあたりは柔らかな稜線に続くトレイルで、ここまでで最も気持ちよく歩けました。昨日の仏生ヶ岳~孔雀岳も良い道でしたが、好みとしてはこちらが上と言えます。ここをまずまずのお天気の日に歩けたというのは幸運なことです。

天狗山から先を見るとこの通り。展望の良い緩やかな尾根が続いているのがよくわかります。これです!これなんです!!こういう山道を歩きたかったんです!!!最高です!!!!

笠捨山がさらに大きく見えるようになってきました。一歩一歩少しずつ距離は縮まっていくものです。

地蔵岳を越えるとトレイルはさらに快適になり、おまけに天気もほらこの通り。もう本当に至福の一時です。

しかしその至福も深仙ノ宿を出てから4時間半後、証誠無漏岳までで終わってしまったのでした。証誠無漏岳の山頂から一歩進んだ瞬間、そこには背丈ほどの笹薮が密生していたのです。ここに至るまでにも笹は結構生えてはいたのですが、高さがせいぜいくるぶしほどしかありませんでしたから、むしろ目には好ましく映っていました。ところがここに生えているのは北海道でよく目にする背の高い笹です。こうなるともう展望は期待できませんし、なにより鬱陶しく感じられます。どうしてこんなにガラリと植生が変わってしまうのでしょう。南に下って来たから?標高が低くなったから?

それでも人ひとり歩ける程度に刈払いをしてくれているので、なんとか歩けるようにはなっています。これだけ深い笹薮を刈払うのはどれほど大変だったか・・・などと考えていたら、こんな看板が。「千日刈峰行 第1回59・6・9~10 新宮山彦ぐる~ぷ 大峯南奥駈道」。つまり、新宮山彦ぐる~ぷなる人達が、千日の日数をかける覚悟で、南奥駈道の薮刈を始めとする登山道整備をしてくれたということですね?その第1回がもう四半世紀前・・・。もし薮刈がなかったらこのあたりはまず歩けないに違いありません。それは先程の笹の濃さを見れば一目瞭然です。こういう方たちのお陰で奥駈道を歩き通すことができるようになったとは、本当にありがたいことです。

証誠無漏岳から先は本当に大変な道程でした。そこまで気持ちいい思いさせてやったんだから、その分苦労もしろよ、と言わんばかりです。持経ノ宿まで一気に下って、転法輪岳まで一気に登り返して、そこからは細かいピークの登り下りの続く尾根歩き。もうコマゴマコマゴマと!標高は山頂でも1200m台と低くなっていて、背の高い木々に覆われて景色は見通せません。ひたすら淡々と歩くのみ・・・。で、この大仰な人工物が目立っているのが行仙岳。今日最後のピークです。

ほどなく行仙宿山小屋着。ものすごく立派な小屋です。いくつかの棟があり、いったいどれが泊まっていい建物かわかりませんでした。それぞれ中を覗いてようやく判明。後でわかったことですが、玄関の上にちゃんと「行仙宿山小屋」と明記してありました。

中もきれいで広くて居心地が良さそうです。真ん中に囲炉裏が切ってあるのは、このあたりの山小屋では基本のようです。昨日よりも長く9時間弱も歩いてきたので、ちょっと一服したいところではありますが、薄暗くなる前に水汲みに行かなければなりません。

それがまた一苦労。小屋の脇から急な坂をずっとずっと下っていかなければならないのです。この急さ加減はかなりのもので、実際地面の上を歩く箇所などほとんどありません。強固に作られた階段を頼らなければならないのです。しかもこれが長い!よくまあこれだけ急な坂の下に、これだけ離れた場所に水場を見つけたものだと感心してしまいます。

今日の水場。岩の隙間から水が流れ落ち流れ行きます。いつものように余裕を持って多めに水を汲んだところ、帰りに重くて大変な目に遭いました。往復30分かかって小屋に帰還。なにもこれだけ長く歩いた今日、こんなに大変な水場に当たらなくても・・・。

今日の行程
深仙ノ宿-地蔵岳-涅槃岳-転法輪岳-行仙岳-行仙宿山小屋
 06:46 深仙ノ宿 発
 08:00 天狗山 着
 10:33 涅槃岳 着
 11:47 持経ノ宿 着
 13:18 転法輪岳 着
 15:14 行仙岳 着
 15:38 行仙宿山小屋 着
所要時間:8h52
歩行距離:15.6km
累積標高:+1419m/-1832m

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