2005-02-08

ソフトウェア産業としての山岳ガイド

 きょうは午後から天人峡の通称「くるみの沢」へ行って来た。2月22,23日に予定している「写真家・松野智久と観る冬の野生動物」というプログラムの下見のためだ。「くるみの沢」入り口の駐車帯で松野氏と待ち合わせ、一時間ほど森を歩いてプログラムの構成を考えた。
 どんなプログラムか?の説明は、参加してみてのお楽しみということで、後日に譲る。ここで述べたいのは、我々ガイドにとってのプログラムの重要性という点だ。
 日本には「登山産業」といえるような業界がいちおう存在している。モンベルのような登山用品メーカー、北海道なら秀岳荘に代表される山道具店、北アルプスを頂点に形成されている山小屋業界、『山と渓谷』や『岳人』などの山岳雑誌、古くからある「山案内人組合」などに代表されるガイド業などが「登山産業」を構成している。
 ガイド業が他の分野と大きく違うのは、モノを売らないという点だろう。ザックや登山靴などのハードウェアそのものではなく、それらのモノをどうやって使うのかの「How to = ソフトウェア」を売るのが我々の商売である。たとえば、「ザックの正しい使い方」というソフトと、「疲れない歩き方」というソフトを組み合わせれば、「楽に山を歩く方法」というようなプログラムが出来る。これが我々の商品だ。
 プログラムがたくさんあればあるほど「品揃えのいい店」というわけだが、商品の中には「売れる」モノもあれば「売れない」モノもある。「楽して山を楽しもう」という商品はたぶん売れ筋だと思うが、「登山道の浸食現場を視察して、問題点を語り合う」という商品はまず売れない。じつは売り手の側としては「登山道浸食」プログラムを売りたいのだが、なかなか需要と供給は噛みあわない。
 店側が売りたい商品ばかりをならべても、買い手側が「買いたい」と思わなければ店は潰れてしまう。買い手側が何を「買いたい」と思うかを探るのが、プログラム作りでは一番重要だ。それを知るために、我々ガイドは何度もコースを下見してプログラムの構成を考える。当初予定していたコースに下見に行ったら、「売るものがない」ことが判明する場合もある。そうなると残念ながらそのコースは中止ということになる。コンピュータのソフトウェア開発と一緒で、プロジェクトを立ち上げたはいいが、すぐに頓挫してしまうことも多い。
 「山樂舍BEARオリジナルプログラム 」に、新たなラインナップがなかなか増えないのはこんな"製作過程"を踏んでいるからだ、といったら言い訳にしか聞こえないだろうが、ソフトウェア開発のような完全な先行投資ばかりしていては食って行けないので、勢い"定番"に頼ることになってしまう。珠玉のプログラムを豊富に取り揃える「老舗」になるまでの道のりはまだまだ遠い。

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