2007-12-12

九州山行5日目 屋久島3

11月28日(水)大雨

11月末の屋久島では日出時刻は7時のわずか前。なのに大阪から来たという3人組は何を思ったか4時に起き出しました。暗い小屋の中でヘッドライトを着け、その光がまだ寝ている私の顔をチラチラと照らします。ゴーゴーと燃えるバーナーの音と、ガサゴソとビニール袋をまさぐる音が耳に障ります。朝っぱらから会話も弾んでいるご様子。

はあ。ため息を一つついて、私はしょうがなく起きることにしました。1泊2日で歩けるコースを3泊4日かける今回の縦走。特段急ぐ理由はありませんし早起きする必要もないのですが、さすがにこの環境の中で寝ていられるほど神経は太くありません。向かいに寝ていた女性もしぶしぶ起き出してきます。

いったい何をそんなに急いでいるのかと訝しんでいましたが、結局3人が小屋を出て行ったのは6時30分。それなら5時に起きても充分間に合うでしょうにねえ。もう少し同宿の人に気を遣って欲しいものです。

彼らが宮之浦岳を目指して小屋を出た40分後。ようやく明るくなった7時10分に私は下山の道をとりました。雨は昨日よりも大粒になっていて、一面をぐっしょりと濡らしています。さすがにこれだけ降ると、いかに樹林帯とはいえ、傘代わりにはなってくれません。1時間ほど下り、全身しとどに濡れてしまったころそれは現れました。

今や屋久島そのものになっていると言えるかもしれません。これを見たいがために皆登ってくる、“縄文杉”です。 縄文杉のまわりには展望台が設けられていて、写真撮影のために立ち止まって良い場所とすぐに通り過ぎるべき通路とが画然と塗り分けられています。その通路には一方通行の表示。これだけを見ても、いかにここが混む場所であるかが想像できるというもの。ハイシーズンは過ぎているでしょうし、まだ日帰りの人がたどりつけない時間帯でもあります。今は人っ子一人いない静かな縄文杉も、いつもは人混みに紛れているのでしょう。

でも、残念ながら私は屋久杉の中で最大と言われる縄文杉には、そう感情をゆさぶられませんでした。だって遠くから眺めるだけで、触ったりぐるりと回ったりできないのです。もちろんそれは保護のために意味のあることですが、陳列棚に鎮座しているだけの木ならテレビで見るのと何が違うというのでしょう?

私はむしろ、登山道の両脇に生えている名もない巨木に惹かれました。縄文杉ほど太いものはありませんが、北海道で見るより断然大きな木がそこかしこに無造作にあるのです。からみあうかのような根を踏み越え、雨に濡れる樹肌に触れ、間近から幹を見上げると、なんだかその木を身近に感じられるのです。

そういう意味では縄文杉よりもはるかに良い環境にある“ウィルソン株”。太い切り株の中にできた広い空洞に入ることができます。その広さは畳10畳はあるとか。私が入ったとき、先客が2人いましたが、狭さはすこしも感じませんでした。

石畳のようにしきつめられた石を踏み、株の中に入っていくと中は思ったより明るく、奥に神棚があるのがわかります。見上げると、不思議な形に天井が抜けていてそこからたっぷりと外の光が入ってきていました。

このあたりから、日帰りの登山者、団体ツアーなどとすれ違うようになります。こんな雨だというのに、登山用のきちんとした雨具を着ている人は少なく、傘やらビニールカッパやらの観光客風の人が多いのには驚きました。北海道と違って暖かいから疲労凍死の危険は低いのでしょうか。あんなに濡れては見ているこっちが心配になります。

ちょうどツアーの団体さんがガイドさんからなにやら説明を受けていた“翁杉”。単独の成木としては最大なのだとか。着生植物もわんさかくっついていて賑やかなようです。

数多くの巨木とともに屋久島を特徴づけるのは、川の流れではないでしょうか。至る所に水が流れ集まり、あるいは川となりあるいは飲み水となる。ちょっとした谷地形には必ず水が流れているといった感じで、全山これ小川、屋久島は川の島と言いたくなります。生水をそのまま飲んで良いというのが北海道の人間には新鮮ですし、それがまたエラく旨いのがたまりません。

トロッコ道も屋久島ならではでしょうか。赤い落ち葉が道をきれいに彩っています。過去の遺物というわけではなく、実際にまだ使われているというのが気分を盛り上げてくれます。走っているトロッコも見ることができました。

楠川分かれでトロッコ道とおさらばし、辻峠目指して登り返します。峠直下に巨岩によって作られた自然の屋根“辻の岩屋”が私を待っていました。かなり広い範囲で雨が当たらず、雨宿りには最適です。雨宿りする気もなくすほどに、靴もザックも上半身も下半身もずぶ濡れになってしまっているのが残念なところではあります。そうムチャクチャに激しい雨というわけではありませんが、それでも朝からずっと打たれていれば至る所にじわじわと染みこんでくるのです。

雨で濡れそぼっているくらいの方が植物は元気に見えるというものだ、と自分に言い聞かせ、やってきたのは“もののけ姫の森”。縄文杉に比べると楽に来られるので、観光客も多く目指すところです。前後に広がる苔の景観はなかなかに見事でした。

白谷雲水峡の登山口。結局1日早く切り上げて下山してしまいました。もともとの予定ではもののけ姫の森にほど近い小屋でもう1泊するつもりだったのですが、あまりに濡れてしまったのでその気力がなくなったのです。泊まるはずだった小屋がじめじめと汚かったこともあります。

暖かいお風呂に入って、乾いた服に着替えて、湿っていない布団で眠りたい。一度そう思ってしまうと、後は居ても立ってもいられません。ここから町に向かうバスは1日4便しかありませんが、まあなんとかなるでしょう。そう言えば、昨日会った二人の若者は安くて良い宿に泊まっていると言ってたっけ。下山したら空き室があるかどうか聞いてみよう。もしかしたら彼らと再会できるかもしれない・・・。

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